社会福祉法人 札幌緑花会

札幌地区 緑ヶ丘療育園

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緑ヶ丘療育園ーてんかんミニ知識

第5回 ウエスト医師の名前が冠されたてんかん

2016-01-04

 イギリスの医師ウィリアム・J・ウエストは、自分の息子がいままで報告されていたてんかん発作とは異なる特徴的な発作をおこしたため、1841年に初めて症例報告として発表しましたが、その後20世紀になってようやくこの疾患が注目されるようになり、彼の名が冠せられて「ウエスト症候群」と命名されました。
 ウエスト症候群は生後6ヵ月くらいの子どもに発症し、発作は驚いたように一瞬両手を広げて頭を前屈するので、点頭発作、またはイスラム教のお祈りのように両手を上げて頭を前屈するのでサラームけいれん、あるいは寝ていて身体を急に折り曲げるのでジャックナイフ型の発作などと呼ばれています(現在ではこの発作はてんかん性スパスムと名づけられました)。寝て起きたときや眠くなったときなどに一瞬の発作を数秒おきに何回も繰り返す「シリーズ形成性」が特徴です。発作はモロー反射と似ていますが、シリーズを形成する点が鑑別のポイントです。
 この発作が起こってくると、今まで笑っていたのに笑わなくなったり、お座りしていたのにお座りしなくなるような精神運動発達の荒廃がみられてきます。
 早期発見が重要ですので、疑わしい時には動画撮影し専門医にみてもらうようにしましょう。脳波をとるとヒプスアリスミアという激烈な異常所見を認めますので診断はすぐつきます。抗てんかん薬治療は有効性が低く、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)治療が有効な場合が多いです。
 周産期の脳障害や結節性硬化症などが原因のことが多いのですが、中には予後良好な特発性の場合もあります。ちなみに、私も特発性のウエスト症候群のお子さんたちを治療した経験がありますが、幸いその子たちは完全治癒し、学校でも成績優秀でした。
 百聞は一見に如かずということわざがあります。ウエスト症候群の発作があるのに乳児健診の時に母が発作の様子を医師にうまく伝えられなかったため、診断が大幅に遅れてしまい悲惨な経過をたどったケ-スもあります。ぜひ携帯やデジカメでシリーズを形成する発作の様子を撮影して医師にみてもらってください。改めて強調しますが、早期発見、早期治療が必要なてんかんです。

                      てんかん外来 皆川 公夫

第4回 抗てんかん薬による熱中症にご注意を!

2015-08-14

 連日猛暑が続いており、この季節は熱中症に注意が必要です。熱中症は外気温に対して体が放熱できずに体の中に熱がこもって体温が上昇する「うつ熱」によっておこります。ヒトは暑いと汗をかいて体から放熱させてうつ熱にならないように調節していますが、汗が出にくい「発汗障害」があるとうつ熱による熱中症がおこりやすくなります。以前、全く汗をかくことができない「無痛無汗症」という非常にまれな難病の患者さんを担当していましたが、この患者さんはすぐに体温が40℃をこえて重症の熱中症をおこしてしまうので、クールジャケットを着用させるなど外気温に対する厳重な対策が必要でした。
 かぜで発熱した場合には体の内部で熱をコントロールするため高熱にも限度があるのですが、熱中症の熱源は外気温など体の外にあるため体内で熱を処理できなくなり、外気温による熱の侵入で体温が40℃をこえても上がり続けるという非常に危険な状態になるのです。
発汗障害は子どもと高齢者に多いのですが、抗てんかん薬の副作用でも発汗障害をきたすことがあります。ゾニサミド(商品名:エクセグラン)とトピラマート(商品名:トピナ)を服用している患者さんは発汗障害による熱中症に注意が必要です。
 「乳児重症ミオクロニーてんかん(ドラベ症候群)」では体温が上昇するとけいれんをおこし止まらない状態(けいれん重積)になります。このてんかんではかぜだけではなく、入浴や外気温の上昇などでも体温が上昇してひどいけいれんがおこってしまうので、治療薬としてゾニサミドやトピラマートを服用している場合にはなおさら注意が必要となります。
 また、ゾニサミドは老人のてんかんやパーキンソン病の治療(商品名:トレリーフ)に使用されることがありますので、この場合も発汗障害がおこりやすくなります。
 熱中症の一般的な予防対策のひとつは「たくさん水を飲む」ことですが、発汗障害がある人は水を飲んでも汗が出にくいので、冷房などで涼しくする、体を水で冷やすなどの方が効果的です。しかし、ゾニサミドとトピラマートには炭酸脱水素酵素阻害作用による利尿作用があるため、脱水をおこしやすいという別の副作用もありますので、これらの薬を服用している人は水分をたくさん飲んで脱水の予防をすることがとても重要です。
 ちなみに我が家には肉球でしか汗のかけないワンコがおりますので、この夏はクーラーがフル回転しています。

                      てんかん外来 皆川 公夫

第3回 あなたには絶対音感がありますか?

2015-06-29

 抗てんかん薬の「カルバマゼピン(商品名:テグレトール、レキシン)」は部分発作の治療薬としてよく使用されていますが、三叉神経痛や躁病にも使われることがあります。
カルバマゼピンを飲み始めたら、「音が半音低く聞こえるようになった」と訴えてきた患者さんが今までに10名近くいました。これらの患者さんたちに共通していたのは、「仕事や趣味で音楽に携わっている」ということと「絶対音感を持っている」ということでした。
 カルバマゼピンを飲み始めてすぐ数時間後から違和感を感じたという人もいましたが、だいたい1~2週間以内までに変化を感じているようです。
 音楽に携わっている人にとっては、「音」は一般の人とは比べものにならないくらいに大切ですし、絶対音感のある人は、日常生活の中で音が半音ずれると気持ちが悪くなってしまうことが多いようです。
この半音低く聞こえるメカニズムはまだはっきり分かっていませんが、耳の奥の、音を伝達する器官に影響を与えているのではないかなどといった説が考えられています。
 この症状はカルバマゼピンをそのままの量で続けても1~2週間で消失することが多いのですが、少し量を減らすとすぐに正常な聞こえ方に戻ります。
 もしかしたら、カルバマゼピンを飲み始めるとみなさん一時的に半音低下しているのかもしれません。絶対音感がある人はすぐにその違いに気がつくのでしょうが、絶対音感のない多くの人たちはわからずじまいなのかもしれませんね。
 音楽を仕事にされている人や音楽を専門に学ばれている人は、カルバマゼピンという薬の副作用で音の聞こえ方が変わってしまうこともあるのだということを知っておいてください。
ただし、自分に絶対音感があるかどうかを確かめるためにカルバマゼピンを飲んでみるなんてことは決してしないでくださいね。
 病気の治療のためにカルバマゼピンを飲んで音が変に聞こえるようになったら、すぐに担当医師に相談してください。そして私は絶対音感がありますのでと自慢してみてください。

                          てんかん外来 皆川 公夫

第2回 あなたは人差し指と薬指のどちらが長いですか?

2015-03-03

 男性では人差し指より薬指の方が長い人が多いようです。男性は胎児期に男性ホルモンのアンドロゲンに暴露され、手指の骨に存在するアンドロゲン受容体活性が高いことと羊水中のテストステロンの影響により人差し指より薬指の方が長くなると考えられています。ちなみに、私は男性ですので人差し指より薬指の方が長いです。一方、女性では逆に人差し指の方が薬指より長くなるといわれています。もちろん、みんながそうだということではなく、一般的にそのような傾向があるということです。

 ところで、多嚢胞性卵巣症候群という病気があります。成人女性の5~10%にみられる病気で、月経不順、無月経、不妊症、流産などの症状がみられます。また多嚢胞性卵巣症候群では男性ホルモンのアンドロゲンが過剰のために多毛、低音声などの男性化徴候がみられることもあります。先ほどの人差し指と薬指の長さについても多嚢胞性卵巣症候群の女性では男性化により薬指の方が人差し指より長くなる傾向にあるとの報告もあります。さらに多嚢胞性卵巣症候群ではインスリン抵抗性が認められ、肥満傾向、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化などのメタボリック症候群のリスクが高くなり、子宮内膜癌(子宮体癌)のリスクもあるといわれています。

 多嚢胞性卵巣症候群の原因は明らかではなく、遺伝的要素と環境的要素の両者が関与しているといわれていますが、てんかんの女性に多く(13-25%)、とくに抗てんかん薬のバルプロ酸(商品名:デパケン、セレニカRなど)を服用中のてんかん女性に多い(30-64%)ことが報告されています。

 多嚢胞性卵巣症候群では、卵巣の超音波検査あるいはMRI検査を行うと少なくとも一方の卵巣内に2-9mmの小卵胞が10個以上存在する所見がみられます。さらにホルモン検査で血中の男性ホルモンが高値になります。

 したがって、バルプロ酸(商品名:デパケン、セレニカRなど)を服用しているてんかん女性が初潮発来後に無月経など月経異常がみられるようになった場合には多嚢胞性卵巣症候群の可能性がありますので、主治医に相談するようにしてください。

                          てんかん外来 皆川 公夫

第1回 抗ヒスタミン薬でけいれんがおこりやすくなる

2015-01-20

 抗ヒスタミン薬は、じんましん、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、感冒などに用いられますので、皆さんも抗ヒスタミン薬を服用する機会が多いと思います。

 かぜ薬や花粉症の薬を飲んだとき眠くなりませんでしたか? 抗ヒスタミン薬を服用すると、薬は全身を回って、脳の中にも入ってきます。抗ヒスタミン薬が脳内に入ると、眠くなる、けいれん閾値が低下する(けいれんがおこりやすくなる)という変化がおこってきます。そのため、てんかん患者さんが抗ヒスタミン薬を服用すると、普段よりも発作がおこりやすくなる危険性があります。とくに、こどもは大人よりもけいれん閾値が低いことが知られていますので、こどもが抗ヒスタミン薬を飲むと、もともと低いけいれん閾値がさらに低くなり、きわめてけいれんがおこりやすい状態になってしまいます。

 したがって、こどもの場合には、てんかんや熱性けいれんの既往がなくても、抗ヒスタミン薬でけいれんがおこる可能性があるため、こどもへの抗ヒスタミン薬の服用は控えた方がよいと思います。私はこどものかぜ薬には抗ヒスタミン薬を入れないようにしていますが、市販の総合感冒薬には抗ヒスタミン薬が含まれていることが多いので、市販の総合感冒薬は使用しない方が安全です。

 代表的な抗ヒスタミン薬として昔から使われていた「ケトチフェン:商品名ザジデン」という薬を例にあげてみます。この薬の添付文書には、てんかんまたはその既往歴のある患者にはけいれん閾値を低下させることがあるので禁忌(投与しないこと)と記載されていますし、使用上の注意にも、てんかんを除くけいれん性疾患、またはこれらの既往歴のある患者にはけいれん閾値を低下させることがあるので慎重に投与することと記載されています。

 しかし、花粉症などでは症状を抑えないと生活に大きな支障が出ることがあります。このような場合には脳に入りにくい(眠くならない、けいれん閾値を低下させない)新しいタイプの抗ヒスタミン薬がありますので、その薬剤を選んで使用するようにします。

 患者さん自身が抗ヒスタミン薬の服用について迷ったときには主治医によく相談してください。

てんかん外来 皆川 公夫


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