社会福祉法人 札幌緑花会

札幌地区 緑ヶ丘療育園

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緑ヶ丘療育園ーてんかんミニ知識

第24回 けいれん重積状態の治療薬ブコラム口腔用液について

2022-10-20

 大変久しぶりになりましたが、第24回てんかんミニ知識を掲載いたします。
 2016年6月22日のてんかんミニ知識第8回「てんかん発作に対する家庭での対応」の中でブコラムについて記載しました。ブコラムはヨーロッパでは以前から発売されており、すでにその優れた効果が証明されているので、日本でもできるだけ早期に使用できるよう要望しておりました。幸いこのたび念願かなってついに待望のミダゾラムの口腔粘膜投与製剤であるブコラム口腔用液が2020年12月に発売されました。日本で従来使用されていたダイアップ坐剤とエスクレ注腸キットに比べてブコラムはけいれん重積に対する効果の確実性が高く、速効性のため、小児のけいれん重積に対する家庭内治療法として非常に有力な武器になると思います。
 ブコラムはあらかじめ薬剤が充填された頬粘膜投与用シリンジで、年齢別に修正在胎52週~1歳未満用のシリンジ(投与量2.5mg/0.5ml)、1歳~5歳未満用シリンジ(投与量5mg/1.0ml)、5歳~10歳未満用シリンジ(投与量7.5mg/1.5ml)、10歳~18歳未満用シリンジ(投与量10mg/2.0ml)の4種類あります。このシリンジの液をけいれん重積時に患者の頬粘膜に注入します。けいれんのため口が閉じていても上下の口唇の間にシリンジを入れシリンジの先端を歯茎と頬の間に入れてブコラムをゆっくり注入します。ブコラムは医療従事者と介護者による投与が可能ですが、介護者に関しては、保護者またはそれに代わる適切な者が本剤を投与する場合はその適用開始に当たり医師の指導や確認が必要とされています。これによりけいれん重積時に家族などによる家庭での投与が可能になりました。さらに、2022年7月にブコラムの学校等(保育所、認定こども園なども含む)での教職員等による投与が4つの条件を満たせば可能となりましたので、今後さらにブコラムによる治療が普及していくことと思います。
 しかしながら、ブコラムの投与対象は18歳未満の小児てんかん患者に限られているという問題があります。てんかんは小児期のみならずあらゆる年代にみられる疾患です。したがって、18歳未満のてんかん患者だけにブコラムの福音がもたらされ、18歳以上のてんかん患者にはブコラムを使用できない、17歳まではブコラムを使用できていた患者が18歳になったら使用できなくなるというのでは困ります。今後ブコラムの成人への適応拡大が望まれるところですが、現時点ではブコラムの譲渡先であるヨーロッパのNeuraxpharm社では成人適応拡大のための治験の予定はないと聞いています。ブコラムの成人への適応拡大について患者・親の会や学会を通じての要望が必要と思っています。

てんかん外来  皆川 公夫

第23回 新しいてんかん発作型分類とてんかん分類の紹介(2)

2019-10-17

 前回の第22回てんかんミニ知識では2017年の新しいてんかんの発作型分類について紹介いたしましたので、今回は2017年の新しいてんかん分類として、てんかん病型(てんかん類型)、てんかん症候群、病因について紹介いたします。

 新しいてんかん病型は焦点起始発作を有する「焦点てんかん」、全般起始発作を有する「全般てんかん」、焦点起始発作と全般起始発作の両者を有する「全般焦点合併てんかん」、病型が焦点か全般か判断できない場合の「病型不明てんかん」の4種類となりました。

 てんかん症候群とは、特徴的な臨床像と脳波、画像所見などによって特徴づけられる疾患群であり、年齢依存性、発作の誘因、日内変動、予後、知的・精神的障害などの併存症もしばしば共通します。てんかん症候群が診断されることは病因、予後、治療法などが想定されることになるため重要です。小児欠神てんかん、West症候群、Dravet症候群などよく知られている症候群が数多く存在します。

 近年多くのてんかんに関与する遺伝子が発見されてきたため、今までよく使われてきた特発性全般てんかんの特発性という用語は不正確で、素因性と呼ぶべきであるとされましたが、小児欠神てんかん、若年欠神てんかん、若年ミオクロニーてんかん、全般強直間代発作のみを示すてんかんの4つのてんかん症候群に限っては今までどおり「特発性全般てんかん」という用語を用いてよいことになりました。しかし、個別の症例において担当医が素因性病因を想起することに違和感がない場合には「素因性全般てんかん」を用いてもよいとされています。

 また、従来の特発性部分てんかんとされた中心・側頭部に棘波を示す良性てんかん、Panayiotopoulos症候群などは「自然終息性焦点性てんかん」と呼ぶことになりました。

 次に、てんかんの病因が、「構造的」、「素因的」、「感染性」、「代謝性」、「免疫性」、「病因不明」の6つに分類されました。構造的病因はてんかん外科にとって重要であり、素因性病因は遺伝カウンセリングや結節性硬化症に対するmTOR阻害剤などの検討に重要となります。ただし、複数の病因が関わることもあり、てんかん症候群と病因は一対一対応でない場合があることに注意が必要です。

 さらに、多くのてんかんは学習障害、精神障害、行動障害などの併存症を伴うことがあるので、すべてのてんかん患者において併存症の存在を考慮することが重要とされています。

てんかん外来  皆川 公夫

第22回 新しいてんかん発作型分類とてんかん分類の紹介(1)

2019-08-02

 てんかん診療においては国際抗てんかん連盟(ILAE)による1981年の発作型分類、1989年のてんかん分類が広く使われてきました。

 1981年の発作型分類では部分発作(単純部分発作、複雑部分発作、二次性全般化発作)と全般発作(欠神発作、非定型欠神発作、ミオクロニー発作、間代発作、強直発作、強直間代発作、脱力発作)に分類されていました。

 1989年のてんかん分類では局在関連性てんかん全般てんかんに分類し、さらに両者について原因の有無により症候性特発性に分類されていました。

 しかし、新しい知見が集積され、新しい疾患概念も提唱されてきたことから、2017年にILAEは新しい発作型分類とてんかん分類を公表し、最近日本てんかん学会から日本語版が発表されましたので、今回のてんかんミニ知識ではまず新しい発作型分類について紹介いたします。

 2017年の発作型分類では、発作の起始部位により焦点起始発作(従来の部分発作に相当)と全般起始発作(従来の全般発作に相当)に二分し、そこにあてはまらないものを起始不明発作としています。

 基本版では焦点起始発作は、意識の有無により意識が保たれている焦点意識保持発作(従来の単純部分発作に相当)と意識障害を伴う焦点意識減損発作(従来の複雑部分発作に相当)に分けられます。さらに起始時に運動徴候を呈する場合は焦点運動起始発作、非運動徴候を呈する場合は焦点非運動起始発作と分類します。拡張版では焦点運動起始発作は症状により自動症発作、脱力発作、間代発作、てんかん性スパズム、運動亢進発作、ミオクロニー発作、強直発作に細分類され、焦点非運動起始発作は自律神経発作、動作停止発作、認知発作、情動発作,感覚発作に細分類されます。また、従来の二次性全般化発作に相当する発作型は焦点起始両側強直間代発作となりました。

 全般起始発作は全般運動発作全般非運動発作(欠神発作)に二分されます。拡張版では全般運動発作は強直間代発作、間代発作、強直発作、ミオクロニー発作、ミオクロニー強直間代発作、ミオクロニー脱力発作、脱力発作、てんかん性スパズムに細分類され、全般非運動発作(欠神発作)は定型欠神発作、非定型欠神発作、ミオクロニー欠神発作、眼瞼ミオクロニーに細分類されます。

 起始不明発作は起始不明運動発作として強直間代発作とてんかん性スパズムが、起始不明非運動発作として動作停止発作が細分類されています。

 この新しい分類はやや複雑で慣れるのには時間がかかりそうですが、今後はこの分類が用いられるようになりますので、この分類に慣れ親しむようになさってください。

 次回は新しいてんかん分類とてんかん症候群分類について紹介する予定です。

てんかん外来  皆川 公夫

第21回 緑ヶ丘療育園におけるカルニチン低下の実態

2019-04-26

 2017年2月9日のてんかんミニ知識第11回は「てんかん診療におけるルニチン欠乏」というタイトルでした。その時にはまだ保険診療でカルニチン検査ができませんでしたが、2018年2月1日から待望のカルニチン2分画検査が保険診療としてカルニチン測定対象疾患に対して6か月に1回を限度として行うことができるようになりました。

 当施設はカルニチン低下のリスクを持っているてんかん外来通院中の患者さんや入所中の重症心身障害を有する患者さんを抱えていますので、2018年2月1日からこれらの患者さんに積極的にカルニチン検査を行っています。

 カルニチン検査を開始してまだ1年2か月しか経過しておりませんが、今回はその途中経過をお知らせいたします。

 バルプロ酸(デパケン)はカルニチンを低下させるリスクがある薬剤ですので、当施設のてんかん外来に通院中の患者さんのうちデパケンを服用中の患者さんに対して6か月毎の定期検査項目にカルニチン検査を加えました。カルニチン検査では総カルニチンと遊離カルニチンが測定されます。総カルニチンと遊離カルニチンの差がアシルカルニチンですので検査ではこの3つの値がわかりますが、このうち遊離カルニチン値でカルニチン低下の有無や程度を評価することにしました。結果はカルニチン低下が33.1%の患者さんにみられました。中には重度のカルニチン欠乏の患者さんがいましたが、カルニチン欠乏を疑うような症状がふだんからみられていた患者さんは一人もいませんでした。実際予想だにしなかった頑丈そうな患者さんでもカルニチン低下がみられることがありました。また、従来はデパケン投与中に血中アンモニア値がきわめて高い場合にはカルニチンが低下していると予想しましたが、今回のカルニチン検査の結果ではアンモニア値からカルニチン低下を予測することはできないという結果でした。

 当園に入所している患者さんは、重症心身障害、経管栄養、デパケン服用などカルニチンが低下するリスクを複数持っていることが多いのですが、今回カルニチン欠乏を疑ってカルニチン検査を行った入所患者さんのうち70%と非常に多くの患者さんにカルニチン低下が認められました。とくに経管栄養を行っていてデパケンも服用している患者さんではカルニチン低下は100%に認められ、かつ重度の欠乏がみられました。外来患者さんと同様、重度のカルニチン欠乏があってもふだんとくにカルニチン欠乏を疑う症状はみられませんでした。

 このように、カルニチン低下を認めた外来患者さんも入所患者さんもふだんはカルニチン低下を疑わせる症状がみられませんでしたが、カルニチン欠乏はふだん無症状であっても空腹や飢餓・発熱・感染・嘔吐・激しい運動などエネルギー需要が増大した際に急激に重篤な症状で発症する場合があるとされていますので、無症状であってもカルニチン欠乏を見逃すことなく定期的にカルニチン検査を行い、カルニチン欠乏が認められた場合にはカルニチン補充療法を行うことが重要です。

 カルニチンの補充はレボカルニチン製剤(エルカルチンFF)で行いますが、経管栄養を行っている患者さんではカルニチン含有経腸栄養剤(マーメッドワンなど)や微量ミネラル・カルニチン補給飲料(テゾンなど)を用いたり、これらに少量のエルカルチンを併用したりします。

 補充療法によりカルニチンが正常化してもカルニチン値をモニターしながら補充量を減量するなど調整していくことになります。

 なお、ピボキシル基を含有している抗生物質(フロモックス、メイアクト、トミロン、オラペネムなど)を服用するとカルニチンが低下し、低血糖やショックが起こる危険性があるため、デパケン服用中の患者さんと重症心身障害の患者さんはこれらの抗生物質の服用は避けた方が良いと思います。

 ちなみにカルニチンは赤身の肉に多く含まれており特にラム肉に多いので、ときどきジンギスカンを食べるとよいかもしれません。

てんかん外来  皆川 公夫

第20回 ペランパネル(フィコンパ)

2018-11-29

 ペランパネル(フィコンパ)はゾニサミド(エクセグラン)以来、27年ぶりに日本で開発された抗てんかん薬で2016年5月に発売されました。フィコンパは後シナプスにあるAMPA受容体を高選択的かつ非競合的に拮抗し、グルタミン酸による神経の過剰興奮を抑制して抗てんかん作用を発揮するという新しい作用機序の抗てんかん薬です。二次性全般化発作を含む部分発作だけでなく、強直間代発作にも適応を取得しましたが、他の抗てんかん薬との併用療法となっており、対象患者は12歳以上となっています。ファースト・イン・クラスの薬として、既存薬では抑制されないてんかん発作にも効果が期待されています。現在、小児適応と単剤療法の適応の取得、錠剤以外の剤形の開発が準備されています。

 フィコンパは半減期が長く、1日1回就寝前の服用だけでよいので、患者さんにとっては都合のよい薬と思います。また、不眠症の傾向のある患者さんでは夜寝る前にフィコンパを服用するとよく眠れるようになり、睡眠薬が不要になる場合もあるようです。さらには、前頭葉てんかんなど夜間睡眠中に発作がおきやすいタイプのてんかんへの有効性が期待されています。

 フィコンパは前述したように新しい作用機序をもつ大変興味深い抗てんかん薬で、視床下部過誤腫の笑い発作、進行性ミオクローヌスてんかん、脳炎後てんかん、レノックス・ガストー症候群など様々なてんかんへの有効性が報告されています。てんかん診療ガイドライン2018において、フィコンパは部分発作と強直間代発作の第2選択薬として位置付けられていますが、今後どのようなタイプのてんかんに有効性が高いのか、特発性てんかんに対する有効性はどうなのかなどが明確になってくることが期待されます。

 フィコンパは2mgから開始し、1週間以上の間隔をあけて2mgずつ漸増すると添付文書には記載されています。しかし、フィコンパにはレベチラセタム(イーケプラ)と同様、易怒性・攻撃性がみられることがあるため、開始量を0.5mgないし1mgとし、少量ずつゆっくり増量するという投与方法の方が時間はかかりますが、無難な場合があります。

 また、フィコンパをカルバマゼピン(テグレトール)やフェニトイン(アレビアチン)と併用するとフィコンパの血中濃度が低下することが知られています。

 クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)やクロバザム(マイスタン)はベンゾジアゼピン受容体に作用する薬ですが、耐性(慣れができて効果が低下すること)ができやすいことが知られています。受容体に作用する薬は耐性ができやすいのであれば、AMPA受容体に作用するフィコンパでも耐性ができやすい可能性が懸念されますが、フィコンパの耐性の有無についてはまだわかっていないようです。また、フィコンパの催奇形性についてのデータがまだ十分でないため、妊娠可能女性への投与の安全性は確認されていません。

 ちなみに、第16回てんかんミニ知識にゾニサミドは抗てんかん薬(エクセグラン)ですが、抗パーキンソン病薬(トレリーフ)としても発売されていると記載しました。同様に、ペランパネルも抗てんかん作用以外にALS(筋萎縮性側索硬化症)への有効性が期待されており、現在孤発性ALSに対する医師主導型第2相臨床治験が行われており、興味深いところです。

てんかん外来  皆川 公夫

第19回 ラコサミド(ビムパット)

2018-08-24

 ラコサミド(ビムパット)は2016年8月に発売された日本で最も新しい抗てんかん薬です。ビムパットの効能・効果は16歳以上のてんかん患者の二次性全般化発作を含む部分発作ですが、単剤投与も可能です。小児の適応はまだ取得されていませんが、年内には取得される予定と聞いています。

 ビムパットは新しい作用機序をもつ抗てんかん薬です。フェニトイン(アレビアチン)、カルバマゼピン(テグレトール)、ラモトリギン(ラミクタール)は作用機序としてナトリウムチャネルの急速な不活性化を促進させますが、ビムパットはナトリウムチャネルの緩徐な不活性化を選択的に促進させることによりニューロンの過剰な興奮を抑制して抗てんかん作用を発揮するとされています。すなわち、ナトリウムチャネルの不活性化の促進が急速なアレビアチン、テグレトール、ラミクタールに対して、ビムパットはナトリウムチャネルの不活性化の促進が緩徐であるということが作用機序の違いとなります。一般的に同じ作用機序の薬剤を重ねて使用することは避けるのですが、ビムパットをアレビアチン、テグレトール、ラミクタールと併用することは上述のように作用機序が異なるため可能です。

 ビムパットの効果に関しては抗てんかん薬の使用歴が7剤以上であっても25.8%の患者に部分発作消失が認められたとの報告があり、既存薬では十分な効果を示さない部分発作の患者に対しても有効性が期待できます。

 ビムパットは主な副作用として浮動性めまいがありますが、眠気や精神症状は少ないといわれています。抗てんかん薬にはレベチラセタム(イーケプラ)、トピラマート(トピナ)、ペランパネル(フィコンパ)、ラミクタールなどをはじめ精神症状をきたすものがあり、自閉症や情緒障害のある患者には使いにくいことがありますが、ビムパットはこのような患者にも使用することが可能です。
 また、テグレトールやラミクタールは薬疹の副作用が問題になりますが、ビムパットは薬疹のリスクが少ないといわれています。しかし、テグレトールやラミクタールで薬疹が出現した既往がある患者にビムパットを使用する場合には薬疹のリスクが高まる可能性があることに注意が必要で、投与する前に予め患者に薬疹が出た際の対応の仕方を指導しておくことが重要です。

 このように、ビムパットは新規作用機序を有すること、良好な有効性と安全性が認められていること、臨床的に重要な薬物相互作用が認められないこと、線形性で用量依存的に血中濃度が上昇するなど良好な薬物動態プロファイルを有すること、てんかん患者での服薬継続率が高いこと、骨代謝や脂質代謝への影響が少ないことなど、多くの利点を有する抗てんかん薬として位置づけられています。
 したがって、多くの国で部分発作にはイーケプラやラミクタールに次いでビムパットが使用されるようになってきています。
 ただし、ビムパットは催奇形性についてのデータが未だ十分ではないため、現時点では妊娠可能女性への投与の安全性は確認されていません。今後催奇形性に関する安全性が確認されれば、ビムパットは妊娠可能女性にも使用可能となります。

てんかん外来  皆川 公夫

第18回 ラモトリギン(ラミクタール)

2018-06-11

 ラモトリギン(ラミクタール)は前回のてんかんミニ知識第17回で紹介したレベチラセタム(イーケプラ)と同様、非常によく使われている新規抗てんかん薬です。

 部分発作(二次性全般化発作を含む)をはじめ、全般発作の中の強直間代発作と定型欠神発作には単剤でも使用できますし、難治性てんかんの代表であるレノックス・ガストー症候群の全般発作にも他剤との併用療法として使用できます。

 最近では、部分発作には従来第一選択薬だったカルバマゼピン(テグレトール)に代わって、ラミクタールやイーケプラが第一選択薬として使われるようになってきています。また、思春期の妊娠可能女性の全般発作にも従来第一選択薬だったバルプロ酸(デパケン)に代わってラミクタールやイーケプラの使用が推奨されるようになりました。てんかんミニ知識第13回に記載したように胎児に対するデパケンの催奇形性や認知機能・知能への悪影響を考慮して女性にはデパケンを避ける傾向にあるためです。

 新規抗てんかん薬では血中濃度の測定の意義は少ないとされていますが、ラミクタールでは血中濃度の測定が非常に重要です。ラミクタールは他の抗てんかん薬との間の相互作用によりラミクタールの血中濃度が変化するためです。添付文書に併用抗てんかん薬の種類別にラミクタールの開始量、増量方法、維持量が記載されています。しかし、添付文書に示された維持量にしても効果が出ない場合があり、ラミクタールの血中濃度が低すぎることが原因のことがあります。このような場合にはラミクタールの投与量をさらに増量してラミクタールの血中濃度を適切な濃度に上げることによって効果がえられることがあるので、ラミクタールでは血中濃度の測定が非常に重要になるわけです。

 ラミクタールの大きな問題点として薬疹が出ることがあります。場合によっては中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、薬剤性過敏症症候群等の全身症状を伴う重篤な皮膚障害があらわれることもあります。とくにラミクタールの増量方法が速すぎると皮膚障害が出やすいのですが、添付文書に従ってゆっくり増量すると薬疹が出る頻度は非常に低くなったといわれています。しかし、ラミクタールを使う際には予め患者さんや保護者に薬疹の可能性を説明し、薬疹が出現した際の適切な対処方法を説明しておくことが重要になります。

 ラミクタールは添付文書に従って少量から時間をかけてゆっくり増量していくため、効果が出るのにかなり時間がかかります。場合によっては3ヵ月くらいかかることもあるので、速効性のイーケプラに比べると大きなデメリットになります。

 また、ラミクタールは「双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制」という効能・効果があり、てんかん以外にも使用されることがあります。この効果と関連すると思いますが、てんかんの患者さんにラミクタールを投与すると認知面や情緒面に好影響がでることがあります。ただし、自閉症や知的障害などを合併しているてんかん患者さんでは逆に著明な興奮性や気分高揚をきたす場合があり、注意が必要です。

 このように、ラミクタールは薬疹の副作用があること、効果を確認するまで時間がかかること、血中濃度の測定が必要なことなど様々な問題がある薬剤ですが、非常に有効な薬ですので、私はこれらの問題に適切に対応しながら難治な経過を呈している患者さんにもよく使っています。

てんかん外来  皆川 公夫

第17回 レベチラセタム(イーケプラ)

2018-03-02

 レベチラセタム(イーケプラ)は新規抗てんかん薬の中では最もよく使われている薬です。

 部分発作(二次性全般化発作を含む)には単剤で使用できますが、強直間代発作には他の抗てんかん薬との併用療法として使用されます。

 4歳以上の小児には1日量20mg/kgから最大60mg/kg、成人では1日1000mgから最大3000mgを投与しますが、少量で効果がえられる場合と最大量で効果がえられる場合があります。錠剤の他に小児用のドライシロップ製剤もありますので、錠剤を飲めない患者さんには便利です。

 イーケプラは吸収速度が速く、半減期も短いので、服薬後1時間くらいで血中濃度が最大になりますし、服用開始3日後には定常状態になるため早期に効果をえることができます。さらに投与量と血中濃度が相関するので、増やした分だけ血中濃度が上がります。このようにイーケプラは薬物動態学的に大変使いやすい薬です。

 イーケプラがてんかんに効く機序(作用機序)は従来の抗てんかん薬とは全く異なる新しい作用機序であるため、従来の薬が効かない場合に試してみる価値があります。

 また、イーケプラは他の薬との間に相互作用を起こさないので、他の抗てんかん薬や高血圧の薬など抗てんかん薬以外の薬とも併用できるというメリットがあります。

 さらに、胎児に対する奇形発生率も非常に少ないので、妊娠可能な思春期の女性にも投与しやすい薬剤です。

 以上のように、イーケプラは非常にメリットの多い抗てんかん薬ですので、最近は従来のカルバマゼピン(テグレトール)に代わって部分発作の第一選択薬として使用されることが多くなっています。ただし、イーケプラの投与によりイライラがおこることがありますので、もともと情緒面に問題がある患者さんには注意が必要です。

 ラモトリギン(ラミクタール)もイーケプラと同様、最近は部分発作の第一選択薬として使用されていますが、ラミクタールには薬疹の副作用のリスクや併用薬剤との相互作用のため投与量を調節しなければならないという問題があります。

 ちなみに、イーケプラには点滴静注用の製剤もあります。イーケプラの静注は速効性でけいれん重積にもよく効くのですが、この静注製剤の適応は一時的にイーケプラを口から服用できない状況にある患者に対しての代替療法のみとなっています。今後イーケプラ点滴静注製剤がけいれん重積にも使用できるよう適応拡大されることが望まれます。

てんかん外来  皆川 公夫

第16回 ゾニサミド(エクセグラン)    

2018-01-12

 ゾニサミド(エクセグラン)は日本で開発された抗てんかん薬で、1989年に発売されました。部分発作と全般発作の両方に適応があるので、ウエスト症候群をはじめ難治性のてんかんにも使われることが多い薬剤です。

 エクセグランには、てんかんにも使用されるアセタゾラミド(ダイアモックス)と同様、利尿作用をきたす炭酸脱水素酵素阻害作用がありますので、脱水や代謝性アシドーシスには注意が必要です。

 てんかんミニ知識第4回にも記載しましたが、エクセグランは発汗を減少させることがあるので、体温調節が障害され、高体温の持続につながるおそれがあります。特に夏季には体温が上昇しやすいため、高温環境下をできるだけ避けることが必要です。また、発汗減少から高体温や意識障害等を呈し、熱中症をきたした症例が報告されています。このため、夏季や高温環境下では、観察を十分に行い、発汗減少、体温上昇、顔面潮紅、意識障害等の熱中症の症状の発現に留意することが重要です。

 また、エクセグランによる尿路結石がみられることがあります。とくに重症心身障害児では尿路結石の発生頻度が高いように思います。私の経験では腎盂に結石が陥頓して著明な水腎症をきたし、緊急手術を必要としたケースもありました。乳児や重症心身障害児では結石による痛みを訴えることができない場合もありますので、定期的な尿沈査検査で結晶の有無をチェックしたり、オムツなどに白い砂状の尿砂が出ていないかをチェックすることが必要です。そして結石が疑われるときには尿路系のCT検査や超音波検査を積極的に行うようにすべきと思います。結石が確認された場合には可能であればエクセグランを中止します。また、新規抗てんかん薬のトピラマート(トピナ)にもエクセグランと同様、尿路結石の副作用がありますので、エクセグランとトピナの併用は避けるべきと思います。

 他には、エクセグランで精神症状、食欲低下、体重減少などの副作用がみられることがあります。

 なお、2009年にエクセグランと同じ成分のゾニサミド製剤であるトレリーフがパーキンソン病治療薬として発売されました。ちなみに、抗てんかん薬エクセグランの薬価は100㎎錠が29.8円に対して、パーキンソン病治療薬トレリーフOD 50mg 錠の薬価は167.4円、100㎎に換算すると334.8円となり、同じゾニサミド製剤にもかかわらず、トレリーフはエクセグランの11.2倍も薬価が高くなっています。

 

てんかん外来  皆川 公夫

第15回 フェニトイン(アレビアチン)

2017-10-18

 フェニトイン(アレビアチン)は1940年に発売された古くからある抗てんかん薬で、昔はフェノバルビタール(フェノバール)と並んで非常によく使われていましたが、最近は下記のような理由であまり使われなくなりました。

 通常、抗てんかん薬は投与量と血中濃度が相関する線形動態をとります。すなわち、投与量を増やすと増やした分だけ血中濃度が上がるので、投与量の調整がしやすいのです。ところが、アレビアチンは非線形動態のため、投与量と血中濃度が相関しません。したがって、アレビアチンの有効血中濃度である5~20μg/mlを維持するための投与量の調整が大変難しくなります。血中濃度をもう少し上げたいために、適当であろうと思われる量を増やしても全然血中濃度が上がらない場合がありますし、逆にほんの少量増やしただけで20μg/ml以上の中毒濃度に達してしまうこともあります。また、いったん有効血中濃度域に維持された後、投与量を変更していないにもかかわらず血中濃度が上がって中毒濃度になる場合がありますし、逆に有効濃度以下に低下してしまうことがあります。そのため、定期的にアレビアチンの血中濃度を測定することが必要となります。

 アレビアチンの血中濃度が中毒濃度に達すると急性中毒症状としてふらつき、眼振、振戦などの小脳失調症状が出現しますので、おかしいと気付くのですが、重症心身障害児者では小脳失調症状の急性中毒症状に気付きにくいので、注意が必要です。アレビアチンを服用中の重症心身障害児者では急に嘔吐や眠気が出てきたときにはアレビアチンの急性中毒を疑って血中濃度を測定した方がよいと思います。

 アレビアチンの慢性中毒では小脳萎縮が生じ、進行すると、ふらつきがでてきたり、転びやすくなったり、歩けなくなったりするので、そのような場合は頭部CTかMRIをとるようにします。しかし、重症心身障害児者では上記の症状がアレビアチンの慢性中毒症状とは認識されずに、年齢や基礎の病態によるものとしてとらえられてしまうことがあるかもしれません。急性中毒の小脳失調症状はアレビアチンの減量、中止により改善して元に戻りますが、慢性中毒の小脳萎縮は不可逆的です。

 他の副作用としては、アレビアチンを長期に投与すると毛が濃くなりますし、歯茎が厚くなってきますので、美容上の問題がでてきます。また、てんかんミニ知識第14回テグレトールのところで記載しましたように、チトクロムP450という酵素の誘導による高脂血症や骨粗鬆症、薬疹、胎児への催奇形性の問題などにも注意が必要です。

 以上のようなことから、アレビアチンを継続服用中の場合には、アレビアチンを止めて副作用の少ない新規抗てんかん薬に切り替えていくことが望ましいのですが、この切り替えはなかなかうまくいかないこともあります。

 

                        てんかん外来  皆川公夫


療養介護・医療型障害児入所施設 緑ヶ丘療育園
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