社会福祉法人 札幌緑花会

札幌地区 緑ヶ丘療育園

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緑ヶ丘療育園

第21回 緑ヶ丘療育園におけるカルニチン低下の実態

2019-04-26

 2017年2月9日のてんかんミニ知識第11回は「てんかん診療におけるルニチン欠乏」というタイトルでした。その時にはまだ保険診療でカルニチン検査ができませんでしたが、2018年2月1日から待望のカルニチン2分画検査が保険診療としてカルニチン測定対象疾患に対して6か月に1回を限度として行うことができるようになりました。

 当施設はカルニチン低下のリスクを持っているてんかん外来通院中の患者さんや入所中の重症心身障害を有する患者さんを抱えていますので、2018年2月1日からこれらの患者さんに積極的にカルニチン検査を行っています。

 カルニチン検査を開始してまだ1年2か月しか経過しておりませんが、今回はその途中経過をお知らせいたします。

 バルプロ酸(デパケン)はカルニチンを低下させるリスクがある薬剤ですので、当施設のてんかん外来に通院中の患者さんのうちデパケンを服用中の患者さんに対して6か月毎の定期検査項目にカルニチン検査を加えました。カルニチン検査では総カルニチンと遊離カルニチンが測定されます。総カルニチンと遊離カルニチンの差がアシルカルニチンですので検査ではこの3つの値がわかりますが、このうち遊離カルニチン値でカルニチン低下の有無や程度を評価することにしました。結果はカルニチン低下が33.1%の患者さんにみられました。中には重度のカルニチン欠乏の患者さんがいましたが、カルニチン欠乏を疑うような症状がふだんからみられていた患者さんは一人もいませんでした。実際予想だにしなかった頑丈そうな患者さんでもカルニチン低下がみられることがありました。また、従来はデパケン投与中に血中アンモニア値がきわめて高い場合にはカルニチンが低下していると予想しましたが、今回のカルニチン検査の結果ではアンモニア値からカルニチン低下を予測することはできないという結果でした。

 当園に入所している患者さんは、重症心身障害、経管栄養、デパケン服用などカルニチンが低下するリスクを複数持っていることが多いのですが、今回カルニチン欠乏を疑ってカルニチン検査を行った入所患者さんのうち70%と非常に多くの患者さんにカルニチン低下が認められました。とくに経管栄養を行っていてデパケンも服用している患者さんではカルニチン低下は100%に認められ、かつ重度の欠乏がみられました。外来患者さんと同様、重度のカルニチン欠乏があってもふだんとくにカルニチン欠乏を疑う症状はみられませんでした。

 このように、カルニチン低下を認めた外来患者さんも入所患者さんもふだんはカルニチン低下を疑わせる症状がみられませんでしたが、カルニチン欠乏はふだん無症状であっても空腹や飢餓・発熱・感染・嘔吐・激しい運動などエネルギー需要が増大した際に急激に重篤な症状で発症する場合があるとされていますので、無症状であってもカルニチン欠乏を見逃すことなく定期的にカルニチン検査を行い、カルニチン欠乏が認められた場合にはカルニチン補充療法を行うことが重要です。

 カルニチンの補充はレボカルニチン製剤(エルカルチンFF)で行いますが、経管栄養を行っている患者さんではカルニチン含有経腸栄養剤(マーメッドワンなど)や微量ミネラル・カルニチン補給飲料(テゾンなど)を用いたり、これらに少量のエルカルチンを併用したりします。

 補充療法によりカルニチンが正常化してもカルニチン値をモニターしながら補充量を減量するなど調整していくことになります。

 なお、ピボキシル基を含有している抗生物質(フロモックス、メイアクト、トミロン、オラペネムなど)を服用するとカルニチンが低下し、低血糖やショックが起こる危険性があるため、デパケン服用中の患者さんと重症心身障害の患者さんはこれらの抗生物質の服用は避けた方が良いと思います。

 ちなみにカルニチンは赤身の肉に多く含まれており特にラム肉に多いので、ときどきジンギスカンを食べるとよいかもしれません。

てんかん外来  皆川 公夫